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健康対談

市川染五郎さん×泉澤惠先生

せきは止めない方がいいのですか?

若手歌舞伎俳優の中心的存在として、伝統の探求と新しい可能性の開拓を続ける市川染五郎さんが、日本大学薬学部の泉澤惠先生と多くの話題について語り合いました。第一回のテーマは、役者の命ともいえるのどの健康と、「せき」・「たん」のメカニズムについてです。

のどを酷使する役者の仕事は体調管理も難しい

のどを酷使する役者の仕事は体調管理も難しい

泉澤先日、名古屋での公演が終わったばかりだとうかがいました。そのせいでしょうけど、今日は少し声が出にくそうですね。

市川声は僕らの商売道具ですが、いまだになかなか使いこなせず苦労しています。歌舞伎役者は細くて高い声と太い声の両方を出さなければいけないので、のどをかなり酷使するんです。最近はさすがになくなりましたけど、若い頃は起きたら声が全く出なくなっていて、慌てて病院に駆け込んで「何とかしてください!」というようなこともありました(笑)。

泉澤舞台というのは直接お客さんの目の前で演じるので、コンディションの善し悪しも見る人にすぐ伝わってしまいますよね。体調管理にはずいぶん気を使うのではないですか。

市川そうですね。地方公演になると1カ月ずっとホテル暮らしですし、外は寒いのに室内は汗をかくほどエアコンが効いている、といったこともよくあります。のどの健康を守るために、何かいい方法はありますか。

泉澤乾燥を避けることが第一ですから、加湿器や濡れマスクを使う、飴をなめてのどを潤す、といったことを普段から心がけてください。舞台での本番中に、「せき」が出て困ることはありませんか。

市川ご覧になっている方にはわからないと思いますけど、舞台の上というのはかなりホコリが多いので、「免疫がつくからかえって健康にいい」なんて冗談を言うこともあるぐらいです(笑)。なので、ふとした弾みに思わずむせてしまうことはあります。格好悪いので本当は止めなければいけないんですが。

泉澤俳優さんとしては確かに困るでしょうけど、体のことだけを考えると、その「せき」は我慢せずに出したほうがいいかもしれませんね。

「せき」には「止めないほうがいいせき」もある

「せき」には「止めないほうがいいせき」もある

市川なぜ「せき」を出すのがいいんですか。

泉澤空気の通り道である気管支には、ホコリやウイルスなどの異物が入り込むことがあります。この時、気管支は粘液をたくさん出して異物を絡めとり、体の奥深くまで侵入することを防ごうとします。これが「たん」です。たんは気管支の表面にある「線毛」の働きで上へ上へと押し上げられた後、さらに最後の一押しで外へと排出されます。この反応が「せき」です。つまり「せき」と「たん」は、いずれも体にとって必要な防御反応なんです。

市川もしも「せき」で「たん」を上手く外に出せないとどうなりますか。

泉澤「たん」がどんどん気管にたまって呼吸が苦しくなるので、体はどうにかしてこれを出そうと頑張ってしまうんですね。その結果、ますます「せき」が激しくなります。「せき」は体力を消耗するので、「コホン」という乾いた「空せき」なら薬で止めたほうがいいこともありますが、「ゴホン」という湿った「せき」の場合は「たん」が原因ですので、むやみに止めないほうがいいですね。

市川「せき」が出るとすぐに「せき止め薬」で止めようとしてしまいますけど、それがよくないこともあるんですね。

泉澤ええ、「せき」には「止めないほうがいいせき」もあります。この場合は、まず「去たん薬」などを使えば、「せき」も早く治まります。

市川「たん」を取る「去たん薬」というものがあるんですか。

泉澤ええ。線毛の働きを助けたり、「たん」を外に出しやすい固さにしたり、薬の種類によって働きは多少違いますので、薬局やドラッグストアで薬剤師等にたずねてみてください。

市川「せき」ひとつ、「たん」ひとつをとっても、体というのは本当によくできているものだと感心します。もっともっと自分の体のことを知らなければいけないですね。

プロフィール

歌舞伎俳優 市川染五郎さん

歌舞伎俳優 市川染五郎さん

七代目、屋号は高麗屋。1973年生まれ。
以前は映画・ドラマ出演など他ジャンルにも積極的に取り組んだが「30代は修業の時間」と歌舞伎に集中することを自らに課し、古典はもちろん、時代に合った新たな歌舞伎作品を生み出すことに情熱を注いでいる。

日本大学薬学部薬事管理学 専任講師 泉澤惠先生

日本大学薬学部薬事管理学 専任講師 泉澤惠先生

大学大学院博士課程修了、2006年から現職。博士(医学)。日本医薬品情報学会編集委員、日本薬剤師会一般用医薬品委員。専門は医薬品情報学、一般用医薬品学、デザイン心理学。著書に『OTCメディケーション 虎の巻 改訂版』(日経BP)、共著書に『知っておきたい一般用医薬品 第2版』(東京化学同人)など。

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